100号~状況に応じた資金運用を(老後の場合)~
Aさんは3月に長年勤めた会社を60歳で定年になりました。退職金は2,000万円でした。再雇用で更に5年間65歳まで働くことになったので、当面はその2,000万円に手を付ける必要はありません。早速銀行や証券会社からいろいろな資産運用を勧められています。Aさんはそのお金をどのように扱ったら良いのでしょうか。
大雑把な資金計画を立ててみる
Aさんは、持ち家です。定年までに1,000万円の蓄えがあったので退職金と併せると60歳で3,000万円の金融資産があります。
勤労収入がなくなる65歳から年金生活になります。
先ず、通常の生活費とは別に不時の必要経費を確保しておく必要があります。例えば持ち家の補修費(これは結構かかります)、思いがけない疾病の医療費、車の買替代金、冠婚葬祭、孫の入学・卒業祝等々。これらの不時の経費として1,000万円程度は見込んでおく必要があるでしょう。
そうすると、年金と残りの2,000万円とで65歳以降の生活をしなければなりません。Aさんの試算では夫婦2人で不時の出費を除いた生活費には年金(*)だけでは1年間に100万円程度足りません。しかし、90歳迄生きると仮定すると65歳からは25年あるので、2,000万円では1年間の年金補填に使えるお金は80万円しかありません。
((*)夫会社員、妻専業主婦の年金は月額21万円程度と言われる)
【この項の整理】
65歳で再雇用終了。3,000万円の金融資産があり、90歳迄生きると仮定すると
①1,000万円は不時の出費に備えて生活費とは別勘定で確保しておかなければならない。
②2,000万円を25年間、年金不足分に充当すると1年当たり80万円となる。
試算よりも生活費を切り詰めなければならないほどで、老後生活トータルとしては全く余裕資金がありません。
お金を減らすかもしれない勧誘には目を向けない
上記1で見たように65歳で3,000万円あったとしても、老後生活を通してみるとギリギリです。何とか増やしたいと思う方も多いでしょう。銀行や証券会社はいろいろと魅力的な提案をしてくれます。では退職金2,000万円のうちの1,000万円くらいは彼らの勧めに従って仕組債を買ってみようか、あるいはこれなら安全といわれるインデックス投信を買ってみようか、と考えてしまうかもしれません。
しかし、ちょっと待ってください。3,000万円はギリギリのお金なのです。今さしあたり必要ではありませんが、今後30年間を考えるといずれは必要になるお金なのです。儲かることだけを考えないで、損するかもしれないということも考えてください。
【この項の整理】
3,000万円は今すぐ要るお金ではありません。しかし、将来必ず必要になるお金です。
少し足りないくらいですが、増やすことよりは減らさないことに気を遣いましょう。
銀行や証券会社のお勧めに対しては儲かることよりも、損をする可能性をしっかり見極めましょう。
今は余裕資金、将来は必要資金の扱い方
将来必要になるお金であっても、当面は自由になるお金なのでずっと銀行で寝かせておくのは勿体ないとお考えの場合は、基本的な考え方だけは明確にして極力安全な運用をすることが肝要です。ブレないようにしてください。
①キャピタルゲインを目的とした投資は行わない。
買った時よりも高い値段で売って利益を稼ぐタイプの商品です。株式などはその典型です。株式は多くの複雑な要素がからみ過ぎていて買った時よりも上がるか下がるかの予測はほとんど不可能です。ここに将来必要になるお金を託すわけにはいきません。一般的にキャピタルゲイン型の商品には同様の傾向があります。
②元本リスクを最小化できるインカムゲイン型投資とする
元本の安全性を第一に考えるとインカムゲイン型の商品となります。たとえば銀行預金です。元本は一定で定期的に入ってくる利息が利益になります。国債や社債などの債権もこのグループです。この中でも二つに分けて考えることが必要です。
(イ)元本のリスクが極力低いものに限る
1,000万円までの銀行預金や日本国債など。またある条件を備えた不動産。
(ロ)インカムゲイン型商品だがリスクが高いものは避ける
社債➡発行した企業の倒産等により償還不能になる可能性があります。
匿名組合型不動産小口化商品➡投資した不動産の所有権は事業を行っている企業のものです。その企業の倒産等により出資金の払戻がされないリスクがあります。
外貨預金➡為替変動により日本円に戻したとき元本が毀損するリスクがあります。また日本の預金保険機構による保護の適用外なので、預金した金融機関の倒産などにより預金元本の払戻がされないリスクがあります。
では、何が良いのか
お勧めは、不動産で、都心立地の、小口化されたものへの投資です。その理由は:
①不動産であること
不動産への投資、つまり大家さんになることです。家賃というのは毎月定額が安定的に入ってくるまさに典型的インカムゲインです。また、不動産の価格は株式などのように激しく変動しません。この特性はその不動産の立地が良ければより確実になります。
②東京都心に立地していること
世界都市として人流が活発で、生活上の利便性が高い東京都心では賃貸需要が旺盛です。その結果空室率は低く、資産価値下落の可能性は大変低いと思われます。空室リスク、元本毀損リスクが低く、上記した不動産の特性を更に確実なものにします。
③小口化されていること
余裕資金を必要資金(生活費)とするときには、現金化する必要があります。1戸単位で保有していたものを売却すると数年分(或いは数十年分)の必要資金を一時に現金化するので運用ロスがでます。しかし、生活費として必要な分を一口単位(例えば100万円)で売却できれば、残りの余裕資金を有効に運用できます。