115号 小口化不動産で行う資産運用のために
8月初めに日本の株式と時を同じくして米国の株式も大暴落しました。また外国為替市場では日本円が米ドルに対して20円(約12%)近くも高くなりました。株式投資や大人気の投資信託通称“オルカン”で資産運用をしていた方は真っ青になったことでしょう。
もっとも株式に関しては信用取引でなければ慌てずに値戻しをじっくり持っていれば良いのでしょうが、いつまたという不安感はなかなかぬぐえません。
そのようなときに一喜一憂しないで済む不動産での資産運用をお考えになる方は多いことと思います。特に昨今は小金額で運用できる小口化された不動産商品が多く出てきていますので、不動産投資が手軽にできるようになりました。
その小口化商品の種類、仕組やリスクなどについてご説明します。
不動産投資とは
安く買って高く売る、その売買差益を儲けとするタイプのものはどちらかといえば投機と考えられるもので、通常不動産投資というのは不動産を所有してそれを賃貸してその家賃を投資の見返りとするものです。簡単に言えば大家さんになることです。家賃と言うのは短期間に上がったり下がったりせず、また、賃借人は頻繁に入居・退去したりするものではありません。そのため不動産投資=大家さん業は安定した堅い資産運用と言われます。
それは小口化された不動産でも全く同じことが言えます。
小口化不動産の投資は大きく二つのタイプに分けられる
①不動産会社など(事業者)に出資して、その見返りとして分配金を受取るタイプ(「TKタイプ」)
事業者が自己の不動産を取得するために必要な資金を投資家から募集し、そして取得した不動産を賃貸運用などして獲得した利益を投資家に配当として分配するもの。
(※このタイプのものは通常匿名組合(TK)契約に基づくのでここではTKタイプと言います。)
②小口化された不動産そのものを購入=所有して賃料を受取るタイプ(「所有タイプ」)
例えば1戸5,000万円のマンションが1口100万円で50口に分割されたような場合、その何口かの共有持分を購入し、そのマンションの入居者が支払う賃料を所有する共有持分の口数に応じて受取るものです。上の例で賃料が1年間300万円、所有する共有持分口数を5口とすれば、300万円×5口÷50口=30万円がこの投資の見返りとなります。
(※実際には管理費や固定資産税等の経費がかかるので、それらの経費を差引いた金額が手取りとなります。通常マンションを販売した事業者が賃貸管理を引き受け、投資家に経費差引き後の手取り金額を支払います。)
2つのタイプの特徴
①TKタイプ
- 出資した資金で購入された不動産は事業者の所有物。投資家に所有権はありません。
- 事業者が破綻した場合は出資金の回収は困難になるというリスクがあります。
- 所有権ではないので相続対策(節税)にはなりません。
- 事業者から支払われる配当金は雑所得となり約20%の源泉税が差引かれます。
- 少額(1口10,000円~)、短期間(1~3年程度)のものが多数です。
②所有タイプ
- 購入した不動産の実質的(*)所有者になります
- 事業者が破綻しても所有権に影響はありません。
- 相続対策として活用できます。(共有持分は相続や贈与の際には相続税評価額で評価されるので相続資産の額が圧縮され相続税や贈与税の節税が期待できる。)
- 分配金は不動産所得となります。共有持分は減価償却が可能です。
- 最小購入金額5百万円~、運用期間10年のものが多数です。
- 終了(売却)時に譲渡所得の確定申告が必要になります。
(*)このタイプの商品は任意組合契約に基づくものが多く形式的には事業者名義で登記されますが、実質的には共有持分の所有者は各投資家であることは契約書に明記されます。
目的に応じて投資するタイプを選ぶ
①余裕資金の資産運用をする
どちらのタイプでも違いはありません。利回り、リスク、手続きの簡便さ等が考慮する点になります。例えばTKタイプは事業者の財務状況による元本リスクがあります。
他方、所有タイプでは購入時に不動産取得税の支払い、終了(売却)時に譲渡所得の確定申告が必要になりますので、1、2年というような短期間の運用には向きません。
②相続対策、インフレ対策とする場合
- TKタイプは自分の所有権にはならないので相続対策にはなりません。
- TKタイプは返還する元本の上限が出資金額というものが多いこと、また長くて3年程度なのでインフレ対策には向きません。
◎この目的のためには所有タイプの方が向いています。
利回りとリスクについて
①利回りについて
利回り=1年間の賃貸利益/不動産の金額×100
1年間の賃貸利益=1年間の賃料収入-1年間の賃貸経費(管理費、固定資産税等)
- 利回りは簡便法として上式のように示されますが、発生が見込まれる全ての賃貸経費を網羅しているか、一部の経費しか見込んでいないかを注意してください。
- 商品によっては (賃貸利益+売却益)/不動産の金額×100 と終了時の売却益まで入れて利回りを計算していますが、このような商品は実現の確度が明確ではない売却益を利回りに見込んでいる場合が多く、これで判断するのは危険です。売買益期待は不動産投資というよりは投機に近いものになります。
②リスクについて
- 事業者の倒産リスク:TKタイプは「有り」、所有タイプは「無し」。
- 元本棄損リスク:両タイプとも「有り」(優先劣後方式の場合は緩和される)
- 空室リスク:両タイプとも「有り」(優先劣後方式の場合は緩和される)
◎元本棄損リスク・空室リスクは物件によるところが大きく、とりわけ立地が重要です。国内の各地から人の流入が続き、また国際都市としてますます発展が見込まれる東京、とりわけ都心は賃貸需要、不動産需要が多く両リスクとも大変低いと考えられます。その半面価格が高くなりますが、リスクの少ない都心物件を手持ちの資金で購入できるのが小口化商品の大きなメリットです。