89号 臨時特集!!《日本の金融緩和は、いつまでも続く?》
テレビや新聞の報道って、本当に間違いない⁉
一部テレビや新聞の連日に亘り、喧騒とした、ヒステリックともいえる報道を目の当たりにし、本当に現在の経済を正しくきちんと視聴者に理解されるように伝えられているのかと疑問を感じました。
今回は皆さんの日々の生活はもちろん、投資判断・行動に直接拘わって来る一連のインフレ報道について「本当のところはどうなのか⁉」と。テレビなどを視聴していて「価格と物価」「悪い円安⁉」「金融緩和の是非」についてかなり誤解をされた認識の下に報道がなされているように思います。読者の皆さんの多くの方も誤解されていらっしゃるかもしれないので、今回、投稿しました。
価格と物価は違うということを正しく理解
先日、一部報道などで「原油価格が上がると物価が上がる」とありました。しかし、原油価格が上がるということと、物価が上がるということとはイコールではありません。
先ず物価と価格は違うということを覚えておいて下さい。価格は個別価格で「個別のものがいくらか」ということです。物価は一般物価の意味です。個別価格の決め方は、原油もそうですが需要と供給の関係で決まります。需要が大きく供給が少なければ価格は上がります。逆に需要が少なく供給が多ければ価格は下がります。
物価は、全体の「もの」の量と全体のお金の量の比で決まります。全体のお金の量が増えると「もの」は相対的に小さくなるので価値が高まり、物価が上がります。決まり方が違うので概念も違います。一部報道などでは、抽象的な使われ方が目立ちますが、そのこと自体が間違いです。
一般物価とは消費者物価指数のこと。消費者物価指数は、世の中のありとあらゆる品目をそれぞれの取引量に応じ加重平均して算出した指数です。世の中のありとあらゆる品目ですから何万品にもなります。世の中全部のもので、それこそ膨大な品物が消費者物価指数に含まれるということです。
インフレかデフレかの判断基準は消費者物価指数のコアコアで決まる
一部マスコミなどで、原油価格が上がり、物価も上がるという話し方をしていましたが、必ずしも正しくはありません。消費者物価指数には、原油などのエネルギー価格と生鮮食料品価格を除いた他の品目で算出するコアコア指数というものがあります。因みにテレビや新聞報道でもエネルギーや生鮮食料品を入れた最新(今年5月)の消費者物価指数の総合指数2.5%(前年同月比)が大々的に公表されました。
ここで注視すべきはコアコア指数ですが、なぜ原油などのエネルギーと生鮮食料品を除くかというと、天候や市況の情勢変化でこれらの価格は乱高下してしまうからです。インフレかデフレかの判断はこのコアコアが基になります。このコアコアは0.8%(前年同月比)と総合指数に比べるとかなりの小幅です。そういう意味では、未だ‘微妙’な数値と言わざるを得ません。
円安って悪いの⁉
今年3月の各企業の決算内容を見渡すと過去最高益が続出し、かなり景気は良いです。この背景には円安による企業実績の伸びがかなり大きいと言われます。
少し横道に逸れますが、実は円安は結果的にGDPを押し上げます。原材料などの輸入製品は高値になり、個人事業主や中小企業、年金生活者などには確かにマイナスで大変ですが、世界に輸出しているようなエクセレント・カンパニー(大企業)はプラスになります。国内製造業などの中小零細企業のマイナスより、大企業のプラスの方が大きいためGDPがプラスになります。
GDPが上がると当然、税収も増加し、この税収分で困窮している個人事業主や中小企業に分配・救済しながら経済を好循環に導くという、これが国の財政政策の役割です。
巷では「悪い円安」とよく聞かれますが、経済学の教科書的にいうと「良い円安」も「悪い円安」もありません。金融政策の結果としての為替レートですから、逆に円安が定着し安定して来たため国内に様々な設備投資をしようという企業の動きが、徐々に広まって来ています。
「スバルは群馬にEVの工場を建てるため2500億円投資」「東芝の半導体メモリ事業を分社化したキオクシアは岩手県に一兆円規模の投資」と。岩手に大規模工場が出来るということで近隣の自治体も含め大盛り上がりという特集がテレビ放映されていました。
これまでの円高下の苦境
ただ「円安になれば輸出量が増えて経済波及効果が大きい」「貿易立国でプラスが大きい」とはいうものの、2008年のリーマンショック以降、急激に円高がすすみ、ドル/円で75円までになりました。これらを受け日本企業は生産拠点やサプライチェーンを海外に移転するなどして、ドル/円で100円~110円ぐらいの円高なら、収益が確保出来る構造にまでもっていった経緯があります。
今、最も懸念すべきは、円安であってもドル建ての円に利益を引き合わしたら儲かっているという、ある種‘見せかけな’、つまり輸出や生産が活況になった訳ではないことです。一番頭を悩ませているのは「中小零細企業の賃金をどう上げていくか」「部品単価や手間賃、工賃が上がらないと仕事に見合った賃金も上がらない」ということです。特にこの20年以上手間賃、工賃がずっと下がり続けています。
本来は、為替レート云々ではなく、きちんと産業構造や景気対策をしていかないと、いつまで経っても貧しい大多数のサラリーマン(日本の中小企業勤務者は68.8%)ということになってしまうでしょう。
円安は実はGDPを押し上げる⁉
よって前々段でも申し上げたように円安によるGDPの押し上げによって増加したパイ=税収が増えるため、中小零細企業や年金生活者などの生活弱者へ財政出動で手当てしてあげる必要性はあるでしょう。
今の日本経済の最重要課題はこの「パイを増やす」ということを放棄してはならないとうことです。増えたパイがあれば財政政策は可能な限り手を尽くせますが、パイがないことには政策を打つことは非常に難しくなります。先ず雇用を促進・増加させ出来る限り失業率を下げます。
コロナ禍で損なわれたGDPギャップの穴埋め(20兆円ぐらい)に財政を出動し、最終需要を産み出す効果を狙うべき時です。ようやく高騰する輸入品の原材料や従業員の給与への価格転嫁がすすみ始め、‘日銀総裁曰はく、コロナ禍に各家庭で全く予定にもなかった「強制貯蓄⁉」‘を吐き出させながら、経済を好循環に乗せ、回していくという極めて重要な局面ではないでしょうか。
金融緩和っていつまで続くの⁉
そもそも日本は円安を政策目標にはしていません。日本は変動相場制の国ですから「為替を安くする」なんて宣言したこともありません。「望ましいインフレ政策を執っていたら、結果的に円安になった」ということでしょう。
為替をケアしない代わりに、私たちは「金融政策の自由」を手にしているのです。
国内経済で最も大事なことは「望ましいインフレ率を実現すること」「人々のインフレ期待をコントロールすること」の方がより経済の厚生に最も寄与するにも拘わらず、その結果としての少々の円安に騒ぎ「金融政策を曲げろ」という乱暴な論調があります。
インフレ率2%は国内的に望ましい政策で、前提は「経済が安定している」ということ。
「安定している経済はデフレではない」ということですから、それを実現するためにインフレターゲットがある。日銀も明確なポリシーとして「2%達成すれば、オーバーシュート・コミットメントで2%以下に下落しないことを確認し確認出来れば、金融緩和を止めます」としています。
根拠もなく無限にこのような状況が、あたかも永らく続けられる訳ではないのですが、経済は一両日にいきなり一変することはありません。
ここでもし物価対策を名目に金融引き締めなどすれば、再びデフレ経済に逆戻りし失業が増え、非正規雇用の方々のような弱者が、最初に雇止めされます。マスコミなどが一番ケアすべき弱い立場の方々が一番困る、ということを肝に銘じ、どうか冷静な世論形成を待ちたいところであります。